ゆずゆず温泉

これまでちょっと冬眠中でしたが、これからは春眠暁を覚えずで行きます(だめじゃん)。

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GRAVITY ZERO(ブリサードアクセル・吹雪×六花)

☆まえがきにかえて
プログラム29と30の間、空白の一ヶ月を自分なりに埋めてみようと思って書きました。
そろそろ捏造が多くなってきましたが、どうぞご覧下さい。
続きからどうぞ。

「六花ちゃん? 六花ちゃーん」
 とんとんとん。
 小雪が部屋のドアを叩いている。
「六花ちゃん、ご飯食べないの? 冷めちゃうよ」
 ・・・いらない、と小さい声で言うのが精一杯。
 しかし恐らくその声は、抱きしめたぬいぐるみの柔らかい体に吸い込まれて、ドアの向こうへは届いていないに違いない。
「六花ちゃ・・・あ、晶さーん」
「・・・」
「でも・・・」
「・・・」
 低いやりとりはよく聞こえないが、恐らくは晶が、「放っておけばいい」とか何とか言いに来たのだろう。
 こういうところはクールというかシビアだが、今はそれがありがたくもある。
「・・・六花ちゃん、ご飯一応残しとくからね。あとでチンしてちゃんと食べてね」
 最後にもう一言世話を焼いて、小雪は晶とともに階下へ向かったらしい。
 無人の気配。
 それにほっとするどころか逆につぶされそうになりながら、六花は押し殺した息を吐いた。

 ・・・元はといえば小雪。
 あんたにだって責任があるんだから。

   ☆☆☆

 事の起こりは今日のペア練習に遡る。

   ☆☆☆

 マッケンジーコーチの指導の下、スイングロールを一週間みっちりとこなしてきた吹雪と六花は、ペア特有の技の練習に入っていた。
 ツイスト、リフト、スロージャンプ、そしてデススパイラル。
「よいか二人とも」
 練習のはじめの時、マッケンジーはひどく真面目な顔で言ったものだ。
「これらの技、特にツイストやリフトは、非常に危険を伴う技じゃ。万が一失敗して落下・転倒するようなことがあれば、高さのある分大怪我の危険性もある」
 六花の喉が緊張で締まった。思わず、ごくりと鳴ってしまう。
 長年スケートをやっているから、転ぶのはそれなりに慣れている。
 けれどやっぱり、痛いものは痛い。
 むしろ痛みを知っている分だけ、想像がリアルになる。
 怪我の怖さは身に染みている。
 もしも、一生フィギュアが出来ないような事になったら――。
 やめさせられるのとは全く別の次元で、ぞっとする。
「・・・もちろんお主らが気を抜いて練習をしているなどとはもとより思っておらぬがな。注意してしすぎることはないぞよ。今日からの練習はより一層気合いを入れて、くれぐれも心するのじゃぞ」
「わかった」
 はっとするくらい明瞭な声で吹雪が答えた。
 と同時に六花の手が吹雪の手に包み込まれる。
 いつの間にか固く握りしめていた拳を、柔らかく解すように。
 一瞬戸惑って思わず彼の表情を伺ってしまった。
 吹雪の真摯な瞳が六花を覗き込んでいた。
「安心しろ。お前に怪我させたりは絶対しねえから」
 ・・・どうしてこいつはこんなに自信たっぷりに物事を言い切るのか。
 どんなことにも百パーセントなんて、絶対なんてあり得ないのに。
 それこそ絶対、あり得ないのに。そのはずなのに。
「うん。わかってる」
 いつの間にか、そう答えられる自分になっていることに誰より六花が驚いていた。
 吹雪が大きくうなずく。
「よっしゃ行こうぜ。マッケンジー、まずどうすりゃいいんだ?」
「やれやれ、そう急くものではないぞ」
 マッケンジーが苦笑する。
 こうして二人のペア練習第二幕は始まった。

 基本的なポイントを教わったのち、いざ実践。
 まずは男子が女子を持ち上げる部分を練習。
 後ろ向きに縦に並んで滑る。
 吹雪の手が六花の腰を掴んだ。
 その腕に六花が手をかける。
 六花が自分の体を押し上げる動きと、吹雪が持ち上げる力が合わさって、踏み切った六花の体がふっと浮き上がる――。
「――ゃっ」
 思わず、小さく悲鳴を上げてしまった。
 高い。想像よりもずっと。
 もしそのまま乱暴に落とされたなら、舌を噛むか歯ががちんとぶつかって痛い思いをしたかも知れないが、ふんわりと下ろされたおかげで事なきを得る。
「ふむ」
 マッケンジーがうなずく。
「なるほど、確かに体格以上の力があるようじゃな、吹雪」
「鍛えてっかんな」
 答える吹雪の横で、六花は体の奥から生じるどきどきを鎮めようと必死だった。
 考えてみれば誰かにこんな風に持ち上げられた事なんてない。うんと小さい頃の『高い高い』は除くとして。
 何とも言えない不思議な感覚だった。
 一瞬重力が消えたみたいで。
 エッジが氷を削る音が、一人分だけふっと減って半分以下になって。それが、まるで音全体が遠ざかるみたいな錯覚を引き起こす。
 背後にいる吹雪の姿は目に入らず、視界は広がりすぎている。
 『跳ぶ』ジャンプとはまた違う、『飛ぶ』感覚。
 今でも足が地に着いていないみたいだ。

 ・・・正直、ちょっとだけ、怖かった。

「大丈夫か?」
 あまりに六花が黙り込んでいたので、吹雪が眉根を寄せる。
「あ、え・・・ええ」
 いけないいけない。
 まだまだ、これから、投げられたり回ったり色々やってかなくちゃならないのに、こんなことくらいでびびってどうするのよ!
 気合いを入れ直す。
「大丈夫、さ、もう一回やってみましょう」
「おう!」
 こうして、最初のうちは順調に進んでいたのだが・・・。

 ツイストの練習中。
 吹雪は本当に大した馬鹿力で、(飲み込みが早いというのもあるが、)すぐに六花を投げ上げられるまでになった。
 さて、投げられた六花は、空中で軸を取り、回転する。
 それ自体は今まで数限りなくやってきたジャンプと同じ、はずだが。
 他人に投げられるのはやはり勝手が違う。力のベクトルが合わない。
「!」
 体が傾いた。
 重心がずれてバランスが崩れる。
 (落ちちゃ――!)
 血が凍る。体ががちがちに固まる。
 受け身も取れずに、背中から氷にぶつかってしまう――!

 だが。
 落ちた先は硬くもなければ冷たくもなくて。
 それはもちろん、クッションみたいにぶよぶよに柔らかくはなくてそれなりの衝撃はあるけれど、何よりとても温かい。
 そう、まるで人の体みたいに・・・。
 ――え?
「・・・っつぅ・・・」
「ふ、吹雪!?」
 慌てて六花は跳ね起きた。
 下敷きにしてしまった、吹雪の体。
「よ・・・大丈夫か? 怪我ないか?」
 寝っ転がった姿勢から首だけ持ち上げて、吹雪が問う。
「あ、え、ああ、うん・・・」
 お陰様で、落ちた瞬間の衝撃以外に深刻な後遺症はない。
 吹雪が、かばってくれたから。
「よし!」
 バネ仕掛けの人形みたいに、アクロバティックに起きあがる吹雪。
 がきっ、とエッジが氷を囓る。
「再チャレンジ、いけるか?」
 にっこり、励まされるように聞かれると、
「あ、うん」
 そう短く答えるのがやっとで、「ごめんね」も「ありがとう」も言い損ねた。
 言い損ねたまま、何回目かでまた落ちて。
 またかばわれて。
 六花が落ち着く前に吹雪は立ち直り。
 また練習して。
 今度はちょっと成功して。
 そこで大喜びされるとそれはそれで切り出しにくくて。
 なんでこんな一言が素直に言えないんだろう。
 奥歯にものが挟まったような状態のまま練習が続くうち。
 『その時』は訪れた。

 どさっ。
 重たい音を立てて、二人が氷上に倒れる。
 それ自体は、今日だけで既にもう何度目かのこと。
 問題があるとすれば、それはその体勢だった。
 ひとつ、真っ正面から抱き合う形になった。
「ご、ごめ・・・」
 ひとつ、今度こそお詫びとお礼を言おうと、六花が勢い込んで顔を上げた。
 ひとつ、そのおかげで二人の顔が近づきすぎた。
「・・・」

 六花の顔が熱くなる。
 その体勢が、あんまりにも「あの夜」のそれに酷似していたので。

 あの夜。
 あの公園、あの帰り道、で図らずも二人の唇が接触する事態になってしまった、あの夜。
 小雪に押されて、六花が吹雪を押し倒す形になってしまった、例のあれ。
 あのあとの、気まずかったことと言ったら。
 とりあえず「不潔よ不潔よ」と騒ぎ立てる小雪を黙らせ。
 その間に吹雪との会話はうやむやになり(というかして)。
 何事もなかったように帰って、翌日からも一切その件に触れないように気をつけて。
 幸いにして練習も厳しくてそれどころじゃなくなったし、だから何となく忘れられたかなーと思っていたのだ。
 なのに、なのに、なのに。

 ど、どうして今のタイミングで思い出しちゃうのよーっ!

 唇の生暖かい感触まで一気に蘇ってきた。
 全然ロマンチックではない、それがかえって生々しい、肉と肉、粘膜と粘膜の、漫画やドラマでは絶対に伝わらない(実際想像もしてみなかった)感触。

 そして今、リアルタイムで感じている、吹雪の体の熱さや厚み、脈とか汗とか息遣い。


「――大丈夫、か?」


 ――泣きたく、なった。
 
 吹雪のその一言で我に返って、本当に泣きたくなった。
 というか本当に、泣いてしまった。

「あ、おい、大丈夫か? どっか痛めたか」
 首を振るのが精一杯だった。
 怪我なんてしてない。
 吹雪が守ってくれたから。
 体を張ってかばってくれたから。
 なのに、私は・・・。私は・・・。
 
 なんで、そんな変なこと思い出してたの?

 怪我はしてない。
 痛いとしたら。
 今心配して掴んでくれている二の腕と。
 酸素不足でくらくらする頭と。
 ドキドキと主張をやめない、この馬鹿みたいな心臓だけ・・・。

   ☆☆☆

 そのあとはもう、練習になんてならなかった。
 意地で何とか泣きやんで、もひとつ意地で再々チャレンジしたけれど。
 ガチガチに固くなってしまった体は言うことを聞いてくれない。
 そんな六花の体を独力で持ち上げることは、さすがの吹雪にも負担になるようで。
 結局、一度は出来るようになったはずの、まず投げ上げることが成功しなくなってしまった。
 マッケンジーに「これ以上やっても危険なだけじゃ」と、早上がりさせられたのも仕方がないこと。

 吹雪にあわせる顔がなくて、逃げるように帰ってきた。
 トイレとお風呂と寝るとき以外は呼吸を合わせようって約束したのに、貴重な帰り道一回、無駄にした。
 ううん、貴重な晩ご飯も、無駄にした。
 ベッドにうつぶせになり、押さえつけた胃袋が、きゅるると鳴った。
 でもやっぱりあわせる顔がない。

 なんで・・・かな。
 自分が情けなくて、また涙がにじんできた。
 でも何が情けないのか、実はよくわからない。
 えと、つまり、練習に集中出来ない脆弱な精神が情けない。
 逃げ出して来ちゃった自分が情けない。
 吹雪にちゃんとごめんなさいとありがとうが言えないのが情けない。
 そもそも、さっさとツイストが出来るようにならないのが情けない。
 こういうことを、一人で悶々と考えているのが情けない。
 キスしたら何かがわかるかもなんて、思ってた自分が情けない。

 情けないというか、はずかしいというか。
 ・・・ぐすん、と洟をすすり上げる。

 吹雪と一緒なら大丈夫と思ったのに。
 吹雪に相談出来ない事柄の前では、やっぱり自分は全然大丈夫じゃなくて。
 それが結局、情けない・・・。

 泣きすぎて、なんだかめまいがする。
 足が地面についていないの。
 ――実際足の裏はついていないんだけれど。
 そう、まるで。
 遊園地で絶叫マシンを乗り倒した日の夜の、眠りに落ちる直前みたいに。
 心許なくどこかへ落ちていくような、体中がひっくり返っちゃうような、上も下も右も左もわからなくなるような。
 ひとりっきりの、無重力――。

「おい、六花、入るぞ!」

 声は窓の外からした。
 続いて、どさっという音。
 ――まさか。
 確かめたかったけれど、反応できない。ベッドの上に突っ伏したまま、顔も上げられない。
「いてっ。・・・相変わらずきったねえ部屋だなあ」
 言いながら、闖入者がベッドの横を抜けてドアの方へ向かう気配。
「・・・ちょ・・・何で」
「この前と一緒だよ。小雪ちゃんの部屋の窓から屋根を伝って」
 ぱちん。
 灯りがつけられた。
 顔をクッションに埋めていても感覚でわかる。
「やだ、電気つけないで!」
 反射的に叫んでいた。
 自分の姿を見られたくなかった。
「・・・」
 少し黙って、それから、ぱちん。吹雪は六花の要望を聞いてくれた。
 ドアの所に立ったまま、言葉をかけてくる。
「・・・飯も食わねえから、小雪ちゃんが心配してるぞ」
「――いいの! 食べたくないの。放っておいてよ」
 だからそもそも小雪が悪い。
 あのとき私のことを突き飛ばしたりしなければ、あんなことにならなかったし、そしたらこんなことにもならなかったのだし。
「放っておけるかよ」
 さくり。
 吹雪の声は、六花のとげとげした声のバリケードを抜けて届く。
「・・・パートナーだろ、オレたち」
 声の調子だけで、吹雪がどんな顔をしてるか、わかるようになっている。
 何と言って伝えたらいいかわからない、ちょっと困ったような顔。
 最近いつも、私は彼にそんな顔をさせている。

「・・・ごめんな」

 かっと頭に血が上った。
「――何でよ、何で謝るの!」
 それはこっちの台詞のはずだ。
 何度もかばってもらって、下敷きにして、なのに詫びも入れず礼も言わず、勝手に泣いて、練習めちゃくちゃにして、今もこうして、心配してきてくれた吹雪を拒絶して。
 ――甘えて。
 謝りたいのはこっちの方なのに。
 なんで私に出来ないことを、吹雪は軽々とやってのけるの!?

「怖かった、だろ?」
「――っ」
 一瞬言葉に詰まる。

 沈黙の間に、吹雪がベッドに近づいてきた。
 ぎっ、とスプリングを軽く軋ませて、六花の傍らに腰掛ける。
 吹雪の体温が感じられる距離。
「・・・少し、急ぎすぎたよな。悪かった」
 そっと、六花の髪に吹雪の手が降りてくる。
 優しく撫でられた。

「~~~やめてよっ!」
 はねのけて、身を起こす。
 涙でぐしゃぐしゃな顔をクッションで隠す。
「あなたが悪い事なんてないでしょ!? 一ヶ月の急造ペアだもの、練習がうまく行ったらどんどん進めようって思うのが普通じゃない! 吹雪は悪くないわよ!」
 ぼふぼふと感情の流れのままクッションをはたきながら、六花は叫ぶ。
「違うんだから! 怖くて泣いてたんじゃないんだから! 馬鹿な勘違いしないでっ」
「――じゃあ、何だって言うんだよ・・・?」
 静かに聞かれて、また言葉に詰まる。

 ――嘘だ。

 唐突に気がつく。
 ほんとはやっぱり、怖かった。

 吹雪に体を張って守ってもらっても。
 落ちるときの恐怖、落ちたときの衝撃は消せるものじゃない。
 でもそんなこと言える訳がない。
 そもそも、ペアをやらなくてはいけないのは、自分のせいで。
 吹雪はそれを助けてくれてるだけで。
 それなのに、痛い思いをして自分を受け止めてくれるのに、怖いだなんて、怖いだなんて・・・。
 言える訳がない。

「・・・だから、違うのぉ・・・」
「・・・泣いててもわかんねぇよ」
 言いながら、また吹雪が髪に触れてくる。
 いや、今度は髪と言うよりも頭全体をつかんで、わしわしとやや乱暴に撫でる。
 小さい子にするみたいに。
「・・・っ、ふぇっ・・・くっ・・・」
 でもそんなことをされたらかえって泣けてしまう。
 しばらくしゃくりあげて、ようよう言った。
「――わ、わかってくれなくたって、いいのっ」
「んなわけあるか」
「いいのっ。――私にだってわからないんだからっ」
「あん?」
「私にだってわからないんだから、吹雪にだってわからなくていいの! それでお揃いでしょう!?」
「・・・なんつー理屈こねんだよお前・・・」
 半分苦笑いして、吹雪は六花の頭から手を離した。
 その指先が、そっと頬をかすめた。
 反射的にぴくっと震えてしまう。

「――オレは、怖かった」
 思わぬ言葉が聞こえた。
「――え」
「お前の体が空中でグラって崩れたとき、ものすげえ怖かった」
 一瞬、涙でぐちゃぐちゃのみっともない顔であることを忘れて、吹雪に見入る。
 こういうのを、切ない表情っていうんだろうか――。
「でも、それでも受け止められたから、何となく――大丈夫かなとか思っちまった。お前の気持ち、考えられなかった。悪い」
「・・・吹雪」
「約束する。明日っからは無茶はしねえし、もちろん絶対怪我なんてさせない。絶対だ」

 ・・・ああ、また。
 また、こいつは、絶対とか言って。
 私のことを泣かせようとする――。

「ごめんね」
 言葉は意外なほど素直に口から零れた。
「かばってくれて、ありがとう」
「――うん」
「でもね、ほんとに別に怖くなんかなかったのよ。ちょっと、その・・・」
 言いかけて、少し後悔したが、なんでもない様子を装ってさらりと続ける。
「緊張しちゃったの。男の子とあんなにくっついたことなかったから。仕方ないわよね」
「へ?」
 ぽかんとする吹雪の様子がおかしくて、してやったりと思う。心の中で小さく舌を出した。

「・・・そうか?」
 吹雪の反応に、今度は六花が「え?」と言う番だった。

「俺はあるぞ、女とくっついたこと」
「――え?」
 女の子と付き合ったことないって言ってなかった――? と食いつく前に、吹雪が続けた。
「ていうか、お前と。確かここに初めて来たときに」
「――何でそんなこと覚えてるのよっ」
 絶対覚えてないと思ったのに。
「あと、ほれ、この間――公園・・・」
「ぎゃーっ、わーっ、ウソ、やめて!!」
 じ、地雷、地雷、地雷踏んじゃった!
 慌てた六花が、吹雪を黙らせようとクッションで殴りかかる。
 殴りかかろうとして・・・。

 どさ。

「いっつつ・・・」
 ベッドから転げ落ちた。
 吹雪を下敷きにして。
「痛い・・・」
「お前、もしかして相当ドジなんか?」
 否定は出来ない。
「わ、悪かったわね、ごめんなさいっ」
 やけくそで怒鳴りながら起き上がろうとするのを、ぐっと引き寄せられた。
 頭を押さえ込まれ、抱きしめられる。
「――! ちょ、な・・・」
「緊張しなくなるまでこうしてるとか」
「っ馬鹿なこと言わないで! また小雪に変な誤解されるでしょ」
「別に見られてねえし」
 ――ああ言えばこう言う。
 もう、何だか抗うのも馬鹿らしくなって、脱力してしまった。
 ぺったり。体全体で吹雪に接触する。
 力を抜いた体は重いだろうけど、構うもんですか。
 ちょうど耳の辺りに吹雪の心臓が来て、規則正しい鼓動が聞こえる。
 ・・・少し、早い?
 確かめようと、目を閉じて、集中する。
 ああ、でも自分の心臓もおんなじくらいの速さで打ってて、基準が、よくわからない、や・・・。

「・・・ほんとはね」
 ぽつりと呟く。
「少し、怖かった」
「――ん」
「すっごく高いし、バランスが取れなくて・・・」
「ああ」
「・・・でも、大丈夫よ。吹雪が守ってくれるもの。――ほんとよ」
 吹雪は黙って、ぽんぽん、と二回六花の頭を押さえた。

 やっと、足が地面についたみたい。
 不思議な心地よさを六花は覚える。
 人間は、空に憧れるけれど、無重力では生きていけない。
 鳥だってきっと、重力があるからこそ『飛ぶ』ことができるのだろう。
 私が『飛ぶ』為には、吹雪という重力が必要なのだ。
 私を引き寄せて、つないで、受け止めてくれる存在が。

 どんどんどん。

 ノックの音ではっと我に返る。
「六花ちゃん? 六花ちゃん大丈夫ーっ!? 吹雪くんに変なことされてない!?」
 別に見られたわけでもないのに、跳ね起きて距離を置き、なんとなく身づくろいまでしてみる。
 いや――本当は見てたんじゃないのか、小雪。
「あんまり遅いから心配で。ご飯温まってるよ、吹雪くんも早く食べなよー」
 やれやれと言うように、吹雪が頭をかく。
「しゃあねえ。行くか、六花」
「ええ」
 答えた途端、ぐーっ、と腹が鳴った。
 吹雪と六花、二人同時に。
「・・・ぷ」
「・・・やだ」
 これはもう、笑うしかない。
 いくら息を合わせるのが大事だからって、こんなところまで。
「六花ちゃん? もう六花ちゃんも吹雪くんも、なに笑ってるのよー。なにがおかしいのよーーっ」
 小雪の声とノックの音をBGMに、しばらく二人は笑い転げていた。

  ☆☆☆

 確かに。
 吹雪は六花にとって重力ではあるけれど。
 無重力の元にもなり得る。
 心がふわふわして、宙に浮かんで。そんな無重力な気持ちの元に。
 そのことに彼女が気がつくのは、多分もう少し先のこと――。
 けれど、そう遠い話ではないのだろう。

<終>

_____________________________

☆あとがき、のようなもの

プログラム29のあと、どう展開するかワクテカしながら待ってたら、一ヶ月すっ飛ばされてしょぼん。
でもツイストして空から降ってくる六花がめちゃくちゃ可愛くて、萌え。
プログラム31で六花を受け止める吹雪萌え萌え萌え。
そんなところから思いつきました。
一番最初に書きたいと思ったネタを、ようやく書けて満足。
六花が泣いた理由とか、ちょっと軸がぶれてる気もしますが・・・。
世の中わからないこと、はっきり出来ないことの方が多い、ということでここは一つ。

でもフィギュアの練習がわからないのは痛いなあ。
本屋で探しても見つからないし、ましてペアの練習方法となると・・・。
色々間違いがあると思うので、これはちょっとと思った方は教えて頂けるとありがたいです。
(2006年3月15日 ちょこっと内容手直し。主に誤字訂正ですが。)


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*Comment

いらっしゃいませ

はじめましてっ。ようこそいらっしゃいました。
感想下さってありがとうございますーーーっ。
すごく嬉しいです。

吹雪は本当に天然王子様ですよね。
かっこよくてどきどきするけど、でもあんまりにも素な感じすぎて距離を掴みかねるその微妙なバランスがたまらない、と思いながら本編を読んでます。
少しでも再現出来ていたら幸いです。

あやや何と、学校に関する質問をなさった勇者様でしたか!
素晴らしい! 素晴らしい勇気です。
お陰様で萌え燃料備蓄ばっちりですよ。
一緒に登下校、いいですよね!
遅刻しそうになって走り出して、六花のカバン持って上げる吹雪とかおいしいなあとかまた妄想が。
帰り道にちょっと寄り道とか。
でも学校の友達に「彼氏?」とか聞かれるとつい「そ、そんなわけないじゃない」とか言っちゃいそうな六花ちゃんとかとか。

・・・落ち着け自分。
すみません、お客様へのレスでこんな取り乱して。
こんな暴走管理人ですが、これからもぽつぽつ書いていこうと思っていますので、よろしければまたご覧下さい。
こうしてご感想を頂けると、ほんとにほんとに嬉しいです。
ありがとうございました。
  • posted by 百賀ゆずは
  • URL
  • 2006.03/17 03:43分
  • [Edit]

not subject

 はじめまして、ゆずはさま。いつもブログ拝見させて頂いています! 
 吹雪×六花のこんなに素敵なSSが見れてほんとうに幸せです。んもう、天然王子さまな吹雪とドジでそこがまた可愛い六花が・・・! あのキス以降のことは私ももうそ・・・いえ想像してみましたが、これには敵いません!! 素敵萌えをありがとうございます・・・脳内補完どころか、萌え燃料が満タンです、ええ。なんだか吹雪って素でこういうことやっちゃうから・・・六花ちゃんなみに読んでてドキドキしました(白状)。

 学園編・・・いえ、白帝メンバーの学校生活、早く垣間見たいですねえ。吹雪と六花が一緒に登下校するかどうか知りたくて(←半本気)央先生のブログに学校に関する質問をした張本人としては、ヒッジョーに気になるところです。
  • posted by 佐南ユリカ
  • URL
  • 2006.03/16 19:10分
  • [Edit]

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プロフィール

百賀ゆずは

Author:百賀ゆずは
昭和生まれ おうし座A型。
好きな食べ物は最後までとっとくタイプ。
別に好きじゃないけど長期休みの宿題は最終日までとっとくタイプ。

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