ゆずゆず温泉

これまでちょっと冬眠中でしたが、これからは春眠暁を覚えずで行きます(だめじゃん)。

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両腕で地球を支えて(ブリザードアクセル吹雪×六花)

☆まえがき
GRAVITY ZEROの吹雪サイドのお話。
とりあえず、「同じシチュエーションをもう一回読むのは苦痛じゃー」と言う方は別に迂回しても無問題。
(一応、全くのコピペはセリフ部分だけになるようにしましたけれど。)

あと、多分、かなり変な方向に(私の都合のいいように)解釈しているので、吹雪の内面につっこんだ話なんて読みたくないぞ、天然王子様は許せても六花にメロメロなのは許せないぞ、という方はスルーした方が無難です。
いやほんと、心して読んで。
途中で気分が悪くなったら、そのままブラウザ閉じて。
逃げてー。

っというところで、続き からどうぞ。


 ――オレ、地球持ち上げられるんだぜぇ。

 そう言ってクラスメイトがして見せた逆立ちは、足は曲がってるし、よろよろ動くし、全くお粗末なシロモノだった。
 多分5秒も自立してなかった。
 なのに、そいつは目立っていた。
 男子も女子も、そいつを取り囲んで笑っていた。

 なんでだよ。

 逆立ちなんて、オレ、幼稚園の時にはもう出来てたぞ。
 オレの方がもっともっと上手に出来るんだ。
 足だって真っ直ぐのばせるし、片手で立つことだって出来るのに。

 それなのに。
 それなのになんで、誰も、オレの方を見てくれねぇんだ?

 ☆☆☆

 一般開放中のリンク。
 特別シングル練習も一段落、というところで、マッケンジーが吹雪を手招きした。
「さて、そろそろ六花が休憩から戻る時間じゃが・・・ペア練習の前にお主には先に言っておこうと思ってな」
「ん?」
「今日からツイストの練習に入ろうと考えておる――こらこら」
 吹雪の表情にマッケンジーが苦笑いをする。
「そう喜んでばかりはいられないぞよ。ここからは男子は今以上に体力勝負じゃ。ことにお主と六花では身長差もあまりないし、相当の負担を覚悟する必要があるぞね」
「そんなの最初っから覚悟の上だ。力なら任せといてくれよマッケンジー」
 軽く腕を曲げ、筋肉を動かして見せる。
 そう、筋力トレーニングはもうずっと以前から吹雪の日々の習いだった。桜田兄の全体的にムキムキしたそれと比べると目立たないが、必要な部分は鍛えられていると自分では思っている。
「ふむ。まあその辺は普段のお主の動きでわかっておるがな・・・」
 マッケンジーはほんの少し言いよどんだ。
「ペアは相手がいることを忘れてはいかんぞ、吹雪」
「――?」
 何を今更、と思う。
 ペアの基本でもあり、一番の醍醐味でもあるのは、いかにパートナーの全てを理解し、いかにパートナーを信頼し、いかにパートナーを活かす滑りをするかということ。
 一番最初に言われたことだ。
 それを理解――頭でなく体で――する為にスイングロールも一週間、こなしてきた。
 初日の足の蹴り合いは酷いものだったが、でも今は、それより格段に上達して、うまくやれていると思う。
 六花の呼吸もだいぶつかめてきたし、ジャンプだってスピンだって、毎日確実に息があうようになっている。
 六花というパートナーの存在は、日々自分の中に染みこんでいるし、それは六花にとっても同じだと思うのだが・・・。
「ああ、いや、こう言った方がよいかな。六花が『女の子』であることを忘れてはいかんぞ」
「――・・・いや、忘れてるつもりはねぇけど」
 自分より華奢な体、柔らかい肌、高い声、どれひとつとしてそのことを思い知らせないものはない。
「つもりはないじゃろうが――まあよい。とにかく、これから始める練習は、今まで以上に危険を伴うものじゃ。怪我には気をつけてほしい。古い言い方かもしれんが――やはり女の子の顔に傷が付いたら大変じゃからの」
 なるほど、それが言いたかったのか。ずいぶん回りくどい言い方をするものだ。
「ああ、大丈夫。絶対六花に怪我はさせねえ。何かあっても必ず受け止めっから」
「うむ・・・頼んだぞ」
 うなずいたあと、マッケンジーは独り言のように呟いた。
「・・・あの子は、少ぉしばかり意地っ張りで無茶をするところがあるからの。その辺も考えてやってくれるとありがたいんじゃが」


「吹雪、お待たせー」
 間もなく一般開放の時間は終わり、六花が戻ってきた。
 ミニスカートの練習着から伸びる足は細く、それがリズミカルに氷を蹴って、吹雪のすぐそばまで来て止まる。
 吹雪の目線よりも少し低い位置にある頭のてっぺん。ポニーテールのリボンは今日は薄い水色だった。
 女の子、か。
 (忘れてるつもりはねぇんだけどな・・・。)
「? 何?」
「いや、別に。お、マッケンジーが呼んでるぞ」
 揃った二人を交互に見ながら、コーチは練習について説明を始める。
「・・・これらの技、特にツイストやリフトは、非常に危険を伴う技じゃ。万が一失敗して落下・転倒するようなことがあれば、高さのある分大怪我の危険性もある」
 ごくり、と六花の喉が動いた。
 横顔がちょっと緊張している。
 固く握り合わせた手が、白くなっていた。
 しくじったときに痛い目を見るのは、自分よりも、投げられたり持ち上げられたりする六花の方だ。
 六花の反応を見て、吹雪はそれを改めて感じた。
「――今日からの練習はより一層気合いを入れて、くれぐれも心するのじゃぞ」
「わかった」
 マッケンジーの言葉に大きく答えて気合いを入れ直し、同時に六花の手を取った。
 少し冷たい。
 リンクの寒さのせいもあるだろうけれど、それ以上に緊張しているからだ、と思った。
 何だか無性にあっためてやりたくなる。
 六花の目が心許なげに吹雪を見た。
「安心しろ。お前に怪我させたりは絶対しねえから」
 言い切る。少しでも安心させたくて。
「うん。わかってる」
 六花の瞳のブレが消えて、真っ直ぐさが戻ってくる。
 この手応えが頼もしい。大きくうなずいた。
「よっしゃ行こうぜ。マッケンジー、まずどうすりゃいいんだ?」
「やれやれ、そう急くものではないぞ」
 マッケンジーが苦笑する。
 こうして二人のペア練習第二幕は始まった。

 ☆☆☆

 のだが。

 (・・・なして、こっただことになっちまったんだべか。)
 暗い夜道を、吹雪は一人とぼとぼと帰っていた。
 リンクから寮へと通う道。公園を突っ切る、近道。
 いつも六花と二人で、歩調を合わせて帰る道。
 だけど、今日は一人だ。
 六花が先に帰ってしまったから。

 ツイストの練習をしていたときのことだ。
 六花が急に泣き出した。
 空中でバランスを崩した彼女を受け止めて、ふたり重なるように氷の上に倒れて。
「ご、ごめ・・・」
 そう言いながら体を起こしかけた六花の動きが、ぴたりと止まった。
 あんまりにも一点を見つめてじっとしてるから、まさかどこか怪我でもしたのかと思って。
「――大丈夫、か?」
 そう聞いた途端に。
 みるみる涙が盛り上がって、零れた。
 あんな風に人が泣き出す瞬間を初めて見た。
「あ、おい、大丈夫か? どっか痛めたか」
 いくら聞いても、ただ首を振るばっかりで。
 涙の雫が飛んで、吹雪の手の甲に落ちた。

 さすがの吹雪も正直どうしていいのかわからなくなってしまった。
 だってそれまで、全く普通に練習をしていたのだ。
 なかなかうまくいってると思っていた。
 そりゃ初めてやることだから、六花が空中でバランスを崩したりとか、無かった訳じゃないけど。
 怪我だけはしないように、守ったつもりだったのに。

 しばらくして六花はなんとか泣きやんだけれど、そこからの練習はぼろぼろだった。
 六花の体が持ち上げられなくなってしまったのだ。
 それまでは、腰に回した手に力を入れると同時に六花が呼吸を合わせて、ふわりとその体を浮き上がらせることが出来たのに。
 確かに出来たのに。
 同じタイミングで投げ上げようとしても、六花の体にブレーキがかかる。
 そうなると、いくら力を入れてもそれまでのように綺麗に投げてやることが出来ない。
 腕に力を込めれば込めるほど、かえって六花は身を硬くして、飛ぶどころかそのまま転んでしまいそうになるのだ。
「・・・今日の練習はこれまでじゃな。これ以上やっても危険なだけじゃ」
 とうとうマッケンジーからストップがかかった。

 それきり、六花は何も言わずに、先に帰ってしまった。
 逃げるように。

 ――言いたいことがあるなら、言やあいいじゃねえか。

 身を翻して吹雪に背を向け、去っていく六花の、踊るポニーテールが網膜に焼き付いて離れない。

「・・・お主も一旦帰って食事をとってくるといいぞね」
 マッケンジーが静かな声で言った。
「シングルの練習をやるにしても、そのあとじゃ。腹が減っては戦は出来ぬからの」
「・・・ああ」
 かと言って、六花の後をすぐに追いかけるのはためらわれた。
 吹雪の脚力なら、追いつくことは苦でもないけれど、隣に並んでも何を話したらいいかわからない。
 また泣かれたら、と思うと、足が重くなる。

 だからこうしてわざとのんびり、とぼとぼ歩いているのだ。六花に追いついてしまわないように。
 さらに足が勝手に回り道をする。
 いつの間にか公園の中の高台に来ていた。
 ・・・何日か前に、六花と「オレたちだけのドンキホーテ」について話し合った場所だった。
 外灯の明かりの中でベンチが浮かんで見えた。
 ふらふらと寄ってはみたものの、腰掛ける気になれない。。
 一人きりで座っても、ベンチが広すぎて落ち着かないと思った。

 まったく。
 溜息にもならない吐息を一つ。
 六花はよく泣く。
 ほんとによく泣く。
 フィギュアをあきらめなきゃいけなくなると言って泣き、ペアなんてやっぱり無理だと言って泣き、「小雪に変な誤解された」と言って泣き喚き・・・。
 大体初めて会った時からして、あいつは泣いたんだっけな。――オレが勝手に新品の衣裳を着て、破いちまったからだけど。

 だけどいつだってそれなりの理由があるのだ。
 というか、むしろわかりやすいのだ。
 だけど今回は、いったい何がどうして。
 泣き出す前の六花の様子に変わったところはなかったか、思い出そうとしても思い当たる節はない。
 ・・・・・・。

「あー、頭痛ぇ!」

 考えこみすぎて、脳みそに血が足らない。
 吹雪は荷物をベンチの前にどさっと置いた。
 軽く弾みをつけて、両手を地面につき、足を跳ね上げる。
 景色がくるりとひっくり返る。
 血液がじわじわと、逆立ちした頭部に降りてくる。
 このまま寮まで帰ってやろうか。
 そしたら六花は――みんなは、どんなにぎょっとすることか――。


 ――オレ、地球持ち上げられるんだぜぇ。


 そのとき、微かに声が聞こえた。
 目の奥でぐるぐると何かが渦巻いた。
 ぎゅっとつぶった。
 一瞬のあと、崩れる、平衡。

 あ、と思い、二三度手をばたばたつき直して持ちこたえようとしたけれど、結局そのままひっくり返る。

「っ・・・てええ・・・」

 一応受け身らしきものは取ったので、頭は打たずにすんだ。
 その他のところも、打ちはしたけれどとりあえず怪我はない。
 でも、痛いものは痛い。
 薄目を開けると視界がぼんやり滲んで見えた。
 勝手に涙目になっていた。

 そう。
 ・・・痛いものは痛いのだ。
 ・・・怖いものは、やっぱり怖いのだ。
 もう一度目をつぶって、反芻してみる。
 練習の時、六花を体でかばって受け止めた時の感覚。
 ほんとは、相当、痛かった。
 氷で打った背中も痛かったけれど、六花の体が落ちてぶつかった部分も。
 肉がどんなに柔らかくても、その奥には硬い骨がある。
 でもそれは六花の方だって同じように感じたはずだ。
 反芻してみる。
 ちゃんと、思い出してみる。

 乱れて頬にかかる幾筋かの黒い髪。
 青白く血の気を失った顔。
 額に滲んだ汗は、冷や汗ではなかったか。
 揺れていた瞳。
 噛みしめた唇は、いったいどんな言葉を押しとどめていたのか。
 ・・・ほんとは、言いたかったんじゃないだろうか。
 痛いって。怖いって。

 言わせなかったのは、きっと自分だ。
 認めるのがいやだった。
 六花の体が空中で傾いだ時に感じた恐怖を。
 それ以上の恐怖を六花が感じているということを。
 いやだったというよりも、こわかったのかもしれない。

 認めてしまったら、練習が続けられなくなると。

 そっと、目を開ける。
 街灯の光のベールの向こうに、夜空が見える。
 真っ暗に見えないのは街灯のせいだけではない。
 いつだってこの街の空は濁っていて、変に明るくて、星が見えない。
 故郷のそれと、あまりに違う、空。

 ふるさとに、大していい思い出もないけれど。
 それでも生まれ育った場所は生まれ育った場所だし、一緒に星空を見上げた大事な友達だっている。
 それを全て置いて、ここまで来た。
 フィギュアをやりたかったから。

 そんなオレのことを、六花は「バジルに似てる」って言ってくれたのに。
 オレの話を聞いて、オレのことをわかって。
 オレをちゃんと見てくれたのに。

「・・・それなのに、オレが六花をちゃんと見返さなくてどうするんだ・・・」

 腹の底からふつふつと湧いてくるものがある。
 昼の間、夏の日光と大気に焼かれていた地面は、夜になってもまだ熱くて。
 背中を体を温める。
 ようやっと、全体に血が回ってきた。
 頭がしゃっきりしてきた。
 こんなところでひっくり返ってる場合じゃない。
 跳ね起きる。
 荷物を担いで走り出す。
 
 六花の顔をちゃんと見たい。
 ちゃんと話を聞きたい。
 だって六花はオレのパートナーなんだから。
 誰よりも分かり合いたい人間なんだから。

 ☆☆☆

 寮に着くなり、小雪が飛び出してきた。
「ふ、吹雪くーんっ。六花ちゃんと何かあったの!?」
「・・・六花は?」
「部屋に閉じこもっちゃって、ご飯も食べてないの」
「そっか・・・」
 やっぱり、と思う。
「悪ぃ、また小雪ちゃんの部屋の窓から出てっていいか? こないだみてぇに」
「うん! ちゃんと仲直りしてね!」
 そうと決まれば、と二人して階段へ向かいかけたとき。
「待て、北里」
 呼び止めたのは、村雲だった。
「二階は女子寮。男子は立ち入り禁止だぞ」
 今日もきっちりネクタイを締めた最年長者は、こんな時にまでお堅い。
「――わかってっけど、オレ、どうしても六花と話さねぇといけねぇことが――」
 じれて訴える吹雪に、村雲は目だけで微かに笑い、何かを投げてよこした。
 宙を舞うのは・・・タオル?
 反射的に受け取る。
「せめてざっと汗を流して、落ち着いてから行け。そんな形相で行ったら六花がびっくりするぞ」
 そう言って、村雲はさっさと立ち去った。
 どうやら黙認してくれるらしい。
「・・・オレ、そんなにひでぇ形相してっか?」
「・・・とりあえず、すごい汗ではあると思うけど」
「そっか」
 全力で走ってきたから、それも当然だ。
 村雲の忠告は受け入れることにした。
 洗面所で顔を洗い、鏡の中の自分を覗き込む。
 実際、さっきの勢いのまま六花の部屋に飛び込んだら、感情のままに色々まくし立ててしまったかも知れない。
 さすがペアの先輩。
 涼しい顔をしてけっこうな修羅場をくぐってきたのだろうか。
 ついでにバッグから予備のシャツを引っ張り出して着替えた。
 さっぱりしたところで、ぺしっと両頬を叩いて、気合いを入れる。
「おっしゃ――じゃあ改めて、小雪ちゃん頼む」

 屋根づたいに六花の窓まで辿り着く。
「おい、六花、入るぞ!」
 呼びかけて飛び込むと、案の定六花は真っ暗な中でベッドにうつぶせになっていた。
 細くて白い足が屋外からの光に仄かに浮かんでいる。
 ・・・とりあえず、灯りだな。
「・・・ちょ・・・何で」
 ベッドの脇を通ると、六花が声を投げてくる。
 ちょっと嗄れた、鼻声だ。
「この前と一緒だよ。小雪ちゃんの部屋の窓から屋根を伝って」
 ぱちん。
 スイッチを入れると、部屋の景色は黒から人工的な白へ変わる。
 ぐっちゃぐっちゃに散らかった部屋の中、ベッドの上の六花が小さく、頼りなく見えた。
 船が難破して、小さなボートにしがみついているみたいだ。
「やだ、電気つけないで!」
 顔をクッションに埋めたまま、六花が悲鳴を――そう聞こえた――上げる。
「・・・」
 ぱちん。スイッチを切る。
 蒼い闇が戻ってくる。
「・・・飯も食わねえから、小雪ちゃんが心配してるぞ」
「――いいの! 食べたくないの。放っておいてよ」
「放っておけるかよ。・・・パートナーだろ、オレたち」
 なるべく優しく言った。
 六花が黙りこむ。

 ああ、きっとこいつは、また自分自身のことを責めてるんだな。
 そう思った。
 練習が中断になったことも、ツイストがすぐに出来ないことも、全部自分の力不足のせいだって思って。
 こうして、オレが来たことにも負い目を感じて、それなのに棘のある言葉を投げてしまうことでさらに自分が傷ついて。

 きっと、練習が怖いと思ってしまったことですら、自分を責める理由にするのだろう。

「・・・ごめんな」
 自然に口から言葉が零れた。
「――何でよ、何で謝るの!」
「怖かった、だろ?」
 ひくっと六花の肩が動き、一瞬呼吸が止まる。
 そっと近づいてみた。
 傍らに腰掛けると、スプリングがぎっと軋んだ。
 長い髪がさらさらと散らばって、艶やかに光っていた。
 なんだか・・・妙に惹かれてしまう。
「・・・少し、急ぎすぎたよな。悪かった」
 そっと、その髪に触れる。
 柔らかくてすべすべしていた。
 優しく撫でる。
 今まで誰にもそんなことしたことはないけれど。

「~~~やめてよっ!」

 六花の手が飛んできた。
 はねのけられる。
 身を起こした六花の顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
 やっぱり、と思いながら、ちくりと心が痛む。
 その顔をクッションで隠しながら、六花は一息にぶちまけた。
「あなたが悪い事なんてないでしょ!? 一ヶ月の急造ペアだもの、練習がうまく行ったらどんどん進めようって思うのが普通じゃない! 吹雪は悪くないわよ!」
 ぼふぼふとクッションをはたくのが、小さい子供が地団太踏むみたいで、――少し、可愛くもあった。
「違うんだから! 怖くて泣いてたんじゃないんだから! 馬鹿な勘違いしないでっ」
 意地っ張りめ。
「――じゃあ、何だって言うんだよ・・・?」

 精一杯優しく聞く。
 万が一にも、責めてる、なんて受け取られないように。
 六花はまた言葉に詰まった。
 ぎゅううっと、クッションを抱きしめる。
 うなだれて、ちっちゃくなって、まるでこのまま消えてしまいたいと思ってるみたいに。
 ひくっと大きくしゃくりあげると、細い肩が動いた。
「・・・だから、違うのぉ・・・」
「・・・泣いててもわかんねぇよ」
 言いながら、思わず手を伸ばしていた。
 また髪に触れる。
 触れてしまってから、何だか心がくすぐったくなって、ちょっと乱暴に撫でてみた。
 よしよし。
 多分本当に口に出したら六花は暴れるから、胸のうちだけでなだめる。
 よしよし。いい子だから。なんて。
 
「・・・っ、ふぇっ・・・くっ・・・」
 こらえてもこらえても溢れる嗚咽。
 その微かな上下の動きが、髪を通して指から伝わってくる。

 しばらくそうして泣いて、唐突に六花は言い出した。
「――わ、わかってくれなくたって、いいのっ」
「んなわけあるか」
「いいのっ。――私にだってわからないんだからっ」
「あん?」
「私にだってわからないんだから、吹雪にだってわからなくていいの! それでお揃いでしょう!?」
「・・・なんつー理屈こねんだよお前・・・」
 何を言い出すかと思えば。
 半分苦笑いして、六花の頭から手を離す。
 でも、完全に離れてしまうのが――惜しくて、ちょっとだけ指を伸ばした。
 そっと頬をかすめたとき、指先に涙の雫がついた。
 熱くて冷たいその濡れた感触に、心臓がきゅっとなる。

 わからないでいいことなんてないよ。
 わかりたいと思う。
 わかってほしいと思う。

「――オレは、怖かった」

 だから、精一杯の告白。

「お前の体が空中でグラって崩れたとき、ものすげえ怖かった」

 六花が目をぱちくりさせて、こちらを見る。
 泣きはらした顔は、なんだかひどく痛々しくて、無防備で、あどけなくて・・・。
 切なかった。
 
「でも、それでも受け止められたから、何となく――大丈夫かなとか思っちまった」

 切なくて、言えなかった。
 正直でありたいと思うのに、うまく言えなかった。
 
 六花の気持ち、気づいていたのに気づかないふりをしてしまったこと。
 無意識だけど、自分の欲求を優先させてしまったこと。

「――お前の気持ち、考えられなかった。悪い」
「・・・吹雪」
 呼ぶ声が、胸に痛い。
 静かな信頼が心に熱い。
「約束する。明日っからは無茶はしねえし、もちろん絶対怪我なんてさせない。絶対だ」

 そうだこの腕は。
 地球だって持ち上げる腕だ。
 だから六花のことだって、ちゃんと支えてみせる。
 その揺れやすい心ごと、ちゃんと。

 六花の唇が動いた。
「ごめんね。――かばってくれて、ありがとう」
「――うん」
 うなずいた。
 じんわりと温かいものがこみ上げてくる。
 応えてくれた。
 嬉しくて、嬉しくて、
 なんだか、ちょっとだけ、ぎゅうっと抱きしめたくなって困ってしまった。
 ――いや、さすがにそれはまずいかな・・・。

「でもね」
 吹雪の心の底での葛藤に、六花の台詞が早口で割り込んでくる。
「ほんとに別に怖くなんかなかったのよ。ちょっと、その・・・緊張しちゃったの」
 ――そうだよな、お前だってツイストとかやったことないんだもんな。
 と答えかけたのに、続く六花の言葉は全くの予想外なものだった。
「男の子とあんなにくっついたことなかったから。仕方ないわよね」
「へ?」
 一瞬、何を言われたかわからなくて、ぽかんとしてしまう。
 え? あれ? そういう話か?
 ていうか何かそれって・・・違くねぇか?

「・・・そうか?」
「え?」
「俺はあるぞ、女とくっついたこと」
「――え?」
「ていうか、お前と。確かここに初めて来たときに」
 そう。アクシデントではあったけど、後で考えてみればあれは相当きわどかったと思う。ありゃ小雪ちゃんに誤解されても仕方がない。
「――何でそんなこと覚えてるのよっ」
 六花が吠える。
 いや、だって、忘れねぇだろ、普通。
 六花は天然ボケのきらいがあると思っていたが、まさかほんとにボケてるんだろうか。こんなことも覚えてないなんて。あるいは頭を打ったのか。
 ちょっと心配になって、もっとインパクトのある場面を提示してみる。
 さすがにあれは忘れてないだろう。
「あと、ほれ、この間――公園・・・」
「ぎゃーっ、わーっ、ウソ、やめて!!」
 言いかけたら、とんでもない大声を上げて、六花がクッションで殴りかかってきた。
 あ、こら、そんな変な姿勢で身を乗り出したら。

 案の定、六花はバランスを崩して、こっちに倒れかかってきた。
 支えきるのはこっちの体勢的にも厳しいか――。
 なら。
 一瞬で判断して、吹雪はさっと腕を伸ばす。
 六花の体を抱え込むように、背中から床に落ちる――。

 どさ。

「いっつつ・・・」
 とは言ったものの、まあ、氷の上よりは痛くない。
 ベッドの周りにとっ散らかっている洋服なんかがクッションになったし。
 最初っから接触してただけ、六花との間の衝撃も少ない。
「痛い・・・」
 腕の中で六花がうめいた。
 その、むしろ自分の失敗にダメージ受けまくった感じがなんともおかしい。
「お前、もしかして相当ドジなんか?」
 ついつっこんでしまった。
「わ、悪かったわね、ごめんなさいっ」
 語尾を跳ね上げて、同じくらいの勢いで六花が起きあがろうとする。

 
 ――。

 思わず、反射的に、引き寄せて押さえ込んでしまった。
 離れたくないと思ったというか、なんというか。
 まあ、とにかく、反射的に。
「――! ちょ、な・・・」
 腕の中の六花が硬直する。
 ・・・なるほど。
 さっきの、「男とくっつくのは緊張する」というのは、本当ではあるらしい。ならば。
「緊張しなくなるまでこうしてるとか」
「っ馬鹿なこと言わないで! また小雪に変な誤解されるでしょ」
 いい案だと思ったが、全力で否定された。
「別に見られてねえし」

 ・・・そう、誰にも見られていない。
 自分で言っておいて、変にどきっとする。
 六花がふっと力を抜いた。
 重みが増して、体が密着する。
 柔らかいラインが、体全体に感じられた。
 腕に絡まる髪の、滑らかさ。
 ふんわりと、なんだかいい匂いがする。

 六花は『女の子』だ。

 不思議な気持ちだった。
 守ってやりたいとより強く思う一方で、このままぎゅうっと苦しくなるまで抱きしめてしまいたい。
 相反する気持ちの、でも根っこは一つなのかも知れない。
 目を閉じた。
 耳の奥で、鼓動の音が聞こえる。
 ごんごんとうるさいくらいだ。
 
「・・・ほんとはね」
 六花がぽつりと呟いた。
 小さな小さな声が、吐息が、吹雪の服の胸元に染みる。
「少し、怖かった」
 告白の語尾はほとんど無声で、闇に掠れて消えていく。
「――ん」
 ごめんな。
「すっごく高いし、バランスが取れなくて・・・」
「ああ」
 わかった。もう絶対に。
「・・・でも、大丈夫よ。吹雪が守ってくれるもの。――ほんとよ」
 絶対に、お前を泣かせたりしないから。
 口には出さず、代わりにぽんぽんと二回、六花の頭を押さえた。

 ――六花は『女の子』だ。

 どんどんどん。

 ノックの音ではっと我に返る。
「六花ちゃん? 六花ちゃん大丈夫ーっ!? 吹雪くんに変なことされてない!?」
 こ、小雪ちゃん、タイミングってえもんが――。
 いいんだか悪いんだか。
 とにかく焦って起きあがる。
 六花なんかはもっと反応が早くて、ぱっと離れてしまった。
 腕を伸ばしても届かない距離まで。
 つい追いかけるように伸ばしたその手のやり場がなくて、頭をかく。
「あんまり遅いから心配で。ご飯温まってるよ、吹雪くんも早く食べなよー」
 へえへえ、わかった、わかりましたよ。
 小雪ちゃんには全く罪はないのだが、何となく釈然としない。
 いや、別に、何がどうという訳でもないのだが。
 もう少し、あのままいてもよかったかな、などと思ってしまうのだ。
「・・・しゃあねえ。行くか、六花」
「ええ」
 その途端。

 ぐーっ。

 腹が鳴った。二人同時に。
「・・・ぷ」
「・・・やだ」
 これはもう、笑うしかない。
 いくら息を合わせるのが大事だからって、こんなところまで。
「六花ちゃん? もう六花ちゃんも吹雪くんも、なに笑ってるのよー。なにがおかしいのよーーっ」
 小雪の声とノックの音をBGMに、しばらく二人は笑い転げていた。

  ☆☆☆

 二人並んで、後ろ向きに滑っていく。
 六花の腰をつかむと、六花の腕が添えられる。
 呼吸を合わせて力を込めれば、ふわりと浮かび上がる六花の体。
 くるくると回る。
 ポニーテールの髪が弧を描く。
 安定した、いい軸だ。
 宙で回りきって、吹雪の方を向いて、舞い降りてくるその表情が眩しい。

 腰を掴んで受け止める。
 支える。
 支えきる。
 この腕は、地球だって持ち上げる腕。
 
 否。

 ――オレは、地球よりも大事なものを支えてるんだ。

<終>

_________________________

☆あとがきにかえて

お、終わった。
やっと終わったーーーっ。

というわけで、しばらくぶりの吹雪六花小説です。
前回の「GRAVITY ZERO」をあげてすぐくらいに書き始めたのに、今になってしまいました。
なんだかんだで3週間かかったよー。みぎゃー。

もちろん3週間ずっとかかりっきりだったわけではなく。
むしろ書けない事実を直視するのが嫌で、いつもよりもイラスト描いたり、ごんまちドリームに萌えてみたり、テキストファイル開かないことの方が多かったのは内緒です。

そんなに書けないのなら別のネタを書けばよかったのかもしれませんが、でもどうしてもこの段階でこの話を書いておきたかったんですよ。
ていうかぶっちゃけ、タイトル的には先にこちらの「両腕で地球を支えて」があって、そこから「GRAVITY ZERO」をつけたくらいなので。
書かないと先に進めないと思った。
(と、こだわりすぎて過去更新の止まったカップリングは数知れず。)

んーと。
当初目論んでいた話の主眼は「『目立ちたい』って気持ちをやっぱり押さえきれなくてちょっと無茶しちゃった吹雪」だったのです。
でも書き上げてみたら、どう見てもラブラブ中心です。
・・・おかしい。
ていうか私は、本当は、吹雪にはそんなに女の子にメロメロしてほしくないんです!
六花のこと好きとか嫌いとか悩んでほしくないんです。
六花のこと「恋人」って言ってほしい訳じゃない、むしろ「恋人以上」上等じゃん! と思うのです。
・・・思ってるはずなんだけどなあ(笑)。
それは建前なんだろうか、やはり。

ひとつの話を視点を変えて別の側面から書く、というのが好きなもので、今後もあるかも知れませんが、よろしくお願いします。
・・・でも、最初にちゃんと全部考えてやってないので、あとから書く方はつじつま合わせに四苦八苦ですよー。
今回はあれだ、吹雪が寮まで走って帰ってきたところが。六花視点で書いた時にはそこまで考えてなかったんで、汗かいてるとかその手の描写一切なくて。
でもどう考えても走って帰ったら汗だくのはずだし。
「GRAVITY ZERO」でそういう描写を付け足すかなーと悩んでいたら、村雲さんが現れて文字通りタオルを投げてくれました。
よかったよかった。(ご都合主義というなかれ。)
・・・でもいくら顔洗って着替えてもほんとは汗くさいよね(笑)。

あと小雪ちゃんに邪魔(笑)されたあとの吹雪のセリフ。
「しゃあねえ」
は、密かに悩みどころではありました。
本当の吹雪だったら「よっしゃ」かもしれん。
「しゃあねえ」だと、意味とか心情がものすごーく変わってしまう。
悩んだんだけど、すごく悩んだんだけど、結局「しゃあねえ」を取りました。
・・・ま、その時点でラブラブルートを選んでしまったと言っても間違いではない訳で。

だらだらと拙い文章にお付き合い頂いてありがとうございます。
ご感想など頂けますと励みになりますです。
ではでは。
今日発売のサンデーで六花の腕で眠る吹雪を見られることを祈りつつ。


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*Comment

はじめまして

>火の車さま
はじめまして。
コメントありがとうございます。
SSの更新速度があんまり速くなくて申し訳ないですが、これからも出来る範囲で続けていきたいと思います。
吹雪×六花がメインですが、陣×小雪とか村雲×晶とかも書きたいなあと思ってます。一応ネタはあるので。
(あと五反田×まちかとか・・・非常に妄想ですが。)
これからもよろしくお願いいたします。
  • posted by 百賀ゆずは
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  • 2006.04/06 00:48分
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お待たせしました

>佐南ユリカさま
読んで下さって&感想まで頂けて、こちらこそありがとうございますっですっ!!
吹雪サイド、読みたいと思って頂けてたなんて、本当に嬉しいです。
ご期待に沿えるものになっていましたでしょうか?

>これで全国の皆さんへの吹雪×六花布教は完璧です。いまちょうど人気投票でもお隣さんですし!
ありがとうございます。
布教したいですよね! 少しでもそのきっかけになればと思ってます。もっともっと小説とかイラストとか増えてもいいと思うのですよ。他の方が書いたものが激しく読んでみたいです。
人気投票は、このまま大波乱がなければお隣さんのままでいけそうで、よっしゃよっしゃと思ってますです。
 
>恋でどういう気持ちになるのか、わからないだろうし、だからこそ気付かないってのもあるでしょうし(←希望)。
私もそれは大希望です。
気づかないままに色々やらかす吹雪萌えるなあとか妄想します(笑)。

>実はあの1ページまるまる使った寝顔でもまあいいかと思ってしまった、私は吹雪×六花ファン失格!?
いえいえ、私も「まあいいか」と思いましたからー。
それに、エキシビションという燃料もまだ残ってますし。
妄想エンジンはまだまだフル回転ですよー。
私も少しでも燃料の一部になれるように頑張りますです。

>ごちそうさまでした(笑)。
おそまつさまでした(笑)。
本当にご感想ありがとうございます。
すっごく励みになります。ありがとうございました。
  • posted by 百賀ゆずは
  • URL
  • 2006.04/06 00:45分
  • [Edit]

至福です

はじめまして。いつも愉しく拝見しております。ある意味、このSSが目当てといっても過言ではありません。次はだれか楽しみにしています。
  • posted by 火の車
  • URL
  • 2006.04/05 19:43分
  • [Edit]

おひさしぶりです~

ありがとうございますううぅぅ!!
 は、すいません、萌え許容量のメーターが大幅に振りきれて一瞬理性が飛んでしまいました、佐南です。こんにちは。
 いやー、-・・・願ってみるものですねえ、ホントに。この話の吹雪サイド読みたいナー・・・と思い、あーでも自分の妄想力で補うしか、やっぱり・・・でもそしたら思考回路暴走の危機だ・・・とか日々思っていたのですが。今日それは満たされましたよ! ありがとうございます! これで全国の皆さんへの吹雪×六花布教は完璧です。いまちょうど人気投票でもお隣さんですし!
 
 確かに吹雪はそういうこと考えるコではないかもですね、初恋もまだというだけあって、恋でどういう気持ちになるのか、わからないだろうし、だからこそ気付かないってのもあるでしょうし(←希望)。なんかこう・・・吹雪と六花って、【仲間→意識(ドキドキ)→恋人→それ以上】っていう一般の進み方とはちがいますからね。そのビミョ~なところが、まあ、好きなんですが。

 今週のサンデー、 『六花の膝枕or胸の中』のユメは潰えても、実はあの1ページまるまる使った寝顔でもまあいいかと思ってしまった、私は吹雪×六花ファン失格!? でもエキジビションにつなぐ新たなユメがありますから、これからおおいに妄想したいと思います、ええ。妄想するだけなら個人の自由&タダですから(キッパリ)。その妄想を突き動かすのは『萌え』という名の燃料です。長くなりましたが、ゆずは様、ありがとうございました、ごちそうさまでした(笑)。
  • posted by 佐南ユリカ
  • URL
  • 2006.04/05 13:31分
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Author:百賀ゆずは
昭和生まれ おうし座A型。
好きな食べ物は最後までとっとくタイプ。
別に好きじゃないけど長期休みの宿題は最終日までとっとくタイプ。

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